藤そばの想い出

記憶が確かなうちに書き記しておこうと思う。
南3西4にあった太い手打蕎麦の店、藤そばの事。

学生時代の一時期、講義の無い日に街に出て、タワーレコードで物色してから近くのジャズ喫茶でモダンジャズを聴き、ダイエーの「ハブ」でビールかハイボールで過ごし、13時を回った頃に「藤そば」で大もり、といった具合。
今にして思えば夢のような日々であった。

その頃買って読んだグルメ本に、藤原店主のこんな談話があった。

蕎麦とつゆとの相性を確かめるには「かけ」が一番。
夏の暑い時、一見さんに「かけ」を注文されると緊張します・・・というコメントで、いかにもご本人らしい、茶目っ気タップリの表現かと思った。
3年ほど前、帯広の蕎麦店で偶然その本を見つけたので載せておく。

藤そば1

この太くて不揃いな蕎麦は好みが分かれたようだが、祖母が打つ田舎そばで育った私なんかには丁度良かった。ただし特別美味いとも思わなかった。
20歳の若者が年配の常連に混じって(それらしいフリ)をしていたに過ぎず、薄暗く暗く落ち着いた雰囲気がとにかく好きだった。

就職してからは行く機会が激減してしまったものの、奇しくも仕事でのお付き合いが始まる。

古いビル(現ワカツキスクエアビル)の地下に構えていた本店は、1990年のビル改築に伴い2階に移転する。
その準備期間に、当時勤めていた会社の二代目がこの店の常連(そば会メンバー)だった縁で、北3条店(緑苑ビル)へ厨房器具の交換に行かされた。

冬の寒い日だったと記憶している。営業を終えた遅い時間に背広姿のまま工具箱を携えて向かうと既に暖簾は降りていて、店主(以下、大将)の藤原厚人氏が満面の笑顔で待っていた。
作業が終わると釜に再び火を入れ、「もり」をご馳走してくれた。

数日後、二代目(現社長)より電話。
「オイ、藤の大将がアンタの事を気に入ったみたいだぞ」と。
そんな経緯もあって、この店は私が担当する事となる。

ところで、この店を知っている人なら、丸太の椅子を覚えていると思う。
そのうちの5つは大将から頼まれ、当時ログビルダーを志していた私がチェンソー持参で市内の原木業者に赴き、ベイ松(カナダ産のダグラスファー)の太いやつをその場で玉切りして持ち帰り、皮剥きして納めたもの。
当時は末口30センチの2間物でも原木なら1本4,000円程度だったのでその分だけ貰うつもりでいたら、「イヤイヤ、すまんねぇ~」と渡されたポチ袋には折り目をつけずに丸めた1万円の新札。
この心遣いには痺れた・・・。
正しくポチ袋の精神そのものだと思う。

画像

今でも大事にとってある。
中身を何に使ったのか全く記憶にない。ローンの返済にでも消えたのだろう。

この店は木曜が定休日で、ある日明かりが灯いていたので大した用事もないのに寄ってみたら、客席の隅でベレー帽を被った大将がステンのボウルと「秤」を前に、何やら薬の調合みたいな事をやっている。
詳しくは訊かなかったが、単純に「2対8」というものでもないらしい。
粉の入ったボウルが3~4個あったから、蕎麦粉も数種類あったのかもしれない。
見た目は武骨な田舎蕎麦でありながら、優しさや繊細さといった持ち味は、日々のこうした積み重ねによるものだったのだろう。
この時、普段の血色の良い表情とは違ってヤケに老け込んで見えたのが妙に気になった。

大将には娘さんがいて、当時短大生と聞いていた。
店の手伝いに来ていた時に二言三言、話をした記憶がある。
お会いしたのはその時だけなので、ご本人は恐らく覚えていないだろうが。

この店では夜になると蕎麦会席のような料理も出しており、「二代目」の奢りで同期の「Y」と一緒にご馳走になった事がある。
握り寿司まで出てくる豪勢なもので、壁にあった更科源蔵直筆の書を横目に見ながら「1人1万コースだなコレは」などと恐縮しながら味わったものだ。
最後に「ざる」を手繰り、その後に2代目行きつけのスナックで2時間ほど説教やら何やら。

その時に「オイ、大将の娘だけどヨ、嫁にどうだ? 俺がハナシ付けてやるぞ」。
これには閉口した。
何と返したのかは憶えていない。既に転職を決めていたのでその話は「ご和算」となったが、そのまま会社を辞めずにいたら、いずれ「2代目」になったのだろうか? いや、とても務まるものではなかっただろう。

半年後、転機が訪れる。
昼過ぎの空いた時間を狙って退職の挨拶に訪れた際、大将にこっぴどく叱られた。

「これからアンタと付き合えるのを楽しみにしていたのに残念だ」といった内容を、それこそテメエコノヤロー!の口調で捲し立てるものだから堪らない。
最後に「まあいい、頑張れ!」。と、いつもの柔和な表情に戻る。

それから1年後、職場に私あての電話。
「あ~、フジのソバヤでしたぁ」
あげ笊が壊れたのでアンタのほうでなんとかしてくれないか?といった内容。
営業担当に言えば済む事だし、全く畑違いの世界に行った者にわざわざ電話を寄越すとは・・・。
すぐにメーカーに連絡し、自分を覚えていた担当者に手配した。

会社を辞めて負い目を感じているから顔を見せられないのでは? という店主の察しはまさに図星。

件のステン製のあげ笊(マルゼンの製品)は果たして蕎麦屋向けの物だったのかどうか・・・。
富公のオヤジと同様、釜の縁に叩きつけるようにして湯を切っていたのは覚えている。
何事も無手勝流というか、どこかの蕎麦屋で修業する事なくこの世界に進んだ人なのかも知れない。

その後は度々通うようになったものの次第に足が遠のき、駅前通りを歩いているのを見かけたのが最後。
亡くなられる前年だったようで、我が子にここの蕎麦を食べさせるという願望を果たせぬまま終わった。
その後娘さんが継いだと聞いたが、1年ほどで閉めてしまったようだ。

その後、備品類を〔二代目〕が引き取って会社の倉庫に保管してあると聞いた。
思い出のよすがに丸太の椅子を1つ分けて欲しいものだが、同期の「Y」が辞めてしまった現在、その所在を確かめる術がない。

藤そば3

4店舗時代のマッチの図案。
(北海道情報誌HO様、引用許可有難うございました)

070608 味の名店会

「鳥〼」に貼られていた名店会のポスター(2007年6月撮影)。

060406 藤蕎麦

やっと探し出した「もりそば」の画像。
大もりの量が少ないので2枚注文した事もある。
メガネの花番さんがいつも丁度良いタイミングで蕎麦湯を出してくれたものだった。



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2014年07月04日 | Comments(10) | Trackback(0) | 蕎麦・うどん
コメント
No title
こんにちは。
なんかいい話ですね・・・
藤そば、聞いたことがある気がします。

ところで学生時代、タワーレコードは五番街ビルの中に
支店があり、そことDisk Upという当時海賊盤が並んで
いた今のノルベサがある場所の地下によく行っていたの
を思い出しました・・・

懐かしいですね・・・
cartman URL 2014年07月06日 12:24:30 編集
No title
私も「藤」好きでした。
いつの間にかお店が無くなり、緑苑ビルに移ったと聞き、食べに行きまして、「ああ、この味!」と感激したものでした。

funfunさんが店主とこんなに深い御縁をお持ちとは。
溝渕 URL 2014年07月06日 21:41:23 編集
No title
cartmanさん

当時も太い蕎麦は珍しかったように思えます。
5番街ビルは今もありますが、ノルベサ近辺は再開発で昔の面影がすっかりなくなってしまいましたね。

funfunfun409 URL 2014年07月07日 06:37:21 編集
No title
溝渕さん

そのうち書き留めようと思っているうちに何年も経ってしまいました。
色々と失敗をやらかしたのに小言一つ言われなかったのが申し訳ないです。
今にして思うと息子のような気持ちで見てくれていたのかも知れません。

funfunfun409 URL 2014年07月07日 06:38:11 編集
懐かしい!!
こんにちは。そば藤さん、かなり通っていました。丸太椅子懐かしい(笑)
あの蕎麦の強い風味&食感とそれに負けないガツンとくる汁がたまりません。いまだにときどき思い出して無性に食べたくなります。
蕎麦好き URL 2016年10月21日 12:56:36 編集
No title
初めまして。
ファンの方からメッセを頂いて嬉しいです。
あの雰囲気、あの味は忘れられません。
平取に舎弟の店があるんですが、機会がありましたら是非。
http://funfunfun4.exblog.jp/5579097/
funfunfun409 URL 2016年10月22日 09:21:32 編集
No title
わぁ~貴重な情報嬉しいです!!ありがとうございます!これは、絶対に訪問したいです、いえ、訪問します!!あの味を再び味わいたいです!
蕎麦好き URL 2016年10月22日 14:54:41 編集
みなと
初めまして。
東本願寺すぐ南の「みなと」は藤そばさんと何か関係があるのでしょうか。もしかしたらお嬢さんの店だとか。
通りすがり URL 2017年01月19日 10:23:06 編集
Re: みなと
蒸篭、湯桶、猪口、「ざる」の海苔、お嬢さんの店で間違いないです。
驚きました。折を見てお邪魔しようと思います。
情報有難うございました。
funfunfun409 URL 2017年01月19日 12:07:36 編集
No title
やはりそうでしたか。ありがとうございました。
通りすがり URL 2017年01月21日 10:19:34 編集

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