
20代の一時期、チェロを習っていた事がある。
画像のチェロは当時一緒にレッスンを受けていた婆さんから〔形見分け〕として2年前に譲っていただいたもの。
若い頃に散々お世話になった方なので、何かあれば息子さんから連絡が来る事になっているが、そろそろ様子を見に行かなければならない。
大正生れで既に90を過ぎている方だ。
ログハウスに置いてあった自分のチェロは、10年ほど前に泥棒が入り、他の楽器と共に盗まれてしまった。
旧東独時代のGerhard Reinel社製で、当時の価格が18万円。
買った当初、困った事に、余程力を入れないと弦を押さえ切れない。
かつてのエレキ少年は不審に思い、当時行きつけの飲み屋でよく顔を合わせていた大友氏(購入したかさはら楽器のリペアマン)に相談して見て貰ったところ、ナットの溝を全く調整しないまま売られたものと判明した。
あの店員、まだ顔を覚えているぞ!
その後に婆さんがチェロを始める際には大友氏を通したので幸いトラブルはなかった。
私が買ったのと同じモデルだが、こちらのほうが鳴りのバランスが良い。
大友氏は楽器店の廃業後に独立し、現在は北区に工房を構えておられる。
さて、本題。
年の瀬が迫り、部屋の模様替えやスピーカいじりやらをしているうちに、眠ったままのチェロをケースから出して置くスペースを確保した。
f孔から中を覗き込むと、魂柱が入っていないぞ。
英語では「sound post(サウンドポスト)」と呼び、弦楽器の表板と裏板の響きを決定付ける重要なパーツ。
「魂柱」と訳したのは夏目漱石という話もあるが、その真偽はともかく名訳の部類に入るだろう。
魂柱を置く位置は、最高音の弦が乗る駒からややエンド側と決められており、これが1ミリでも動くと響きのバランスが変わってくるらしい。
ちなみにチェロの魂柱は太さが11ミリと決められているようで、これが数百年の歴史から導き出された適正値なものかどうか・・・流通の段階で混乱を避けるためにf孔にギリギリ入るサイズで何時の間にか規格化された可能性もある。
価格はピンキリ。通販サイトを調べていると1本8万円という凄いのもある。
その道の奥に入った方なら似合うかも知れないが、構えも弓の持ち方も忘れてしまった外道者はハードオフで税込594円のドラムスティックを買い求め、ドリルで加工する事からスタートする。

サンドペーパーを当てても一向に細くならず、プライヤーで掴んでガリガリと削り、時々ノギスで計測しながらペーパーで仕上げる。

それから計測棒を自作する。
カネ尺2本を用いてボディの厚みを計測し、板の厚みを減ずるという方法もあったが、多分0.2ミリ単位の世界なので治具を作ったほうが無難。

定位置はこんな感じ。
計測したら15.6センチだった。

ボディが曲面なので、設置面を最大にするにはやや傾斜を付ける必要がある。

こんな事をしたり、

こんなのを使ってみたりと、試行錯誤で時間がどんどん過ぎていく。
落とした魂柱を取り出すのに楽器を真上に持ち上げて何度コロコロ転がしたことだろう・・・。
久し振りにブルックナーのミサ曲やビートルズを聴き通せたのは収穫だったが。

夕方に作業を中断し、ススキノで某マニアの神々達と忘年会。
赤ワインを徹底的に流し込み、酩酊状態で帰宅した。
一夜明けて大晦日。二日酔の回復を待つ。
魂柱を立てた時に適度な圧で収まるように何度も出し入れして紙やすりで微調整を続ける。
緩いと簡単に倒れるし、きついとボディの振動に影響を及ぼすので、ここが腕の見せ所。

魂柱を立てる治具はこの他に針金のハンガーとカネ尺。
やっているうちに少しずつコツが掴めてくるのが嬉しい。
しかし、何年か経って調整が必要になった頃にはペロッと忘れているだろう。

画像では見づらいが、手前の白いチョーク跡のような部分が本来の位置。
都合1日半を費やし、やっと作業を終えた。これでやり残しなく新年を迎えられる。ヤレヤレ・・・。
振動を効率的に伝えるなら、例えば硬質プラスチック製の伸縮ボルトのような物で代用出来ないものだろうか?
弦を替える時にうっかり倒すような事もない。
接触面を傷付けないように木材で手当すればいいわけだし、締め具合で響きの調整も可能だろう。
楽器屋に頼めば魂柱の作成と調整込みで1万もしないから現実的ではないだろうが。
もしブログ等で公開している方がいらっしゃれば是非拝見したいものだ。
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